原状回復費用の計算は、結論から言うと「部位ごとの単価」と「経年劣化(入居年数)」を組み合わせて考えるのが基本的な流れです。壊れた・汚れた部位を特定して単価を確認し、そこに入居年数に応じた負担割合を掛け合わせることで、借主が負担すべき金額の目安が見えてきます。この記事では、賃貸管理会社の担当者が退去立会い後に実際に金額を算出する際の手順を、つまずきやすいポイントとあわせて整理します。
原状回復費用の計算方法をわかりやすく解説【相場・経年劣化の考え方】

坂本大輔 | CalmCraft運営者
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御社専用の業務効率化ツールを月額980円〜で作ります前提の確認:国土交通省ガイドラインは「指針」であって法律ではない
原状回復費用の計算というと、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を思い浮かべる担当者が多いと思います。ここでまず押さえておきたいのは、このガイドラインには法的拘束力がないという点です。
国土交通省が作成している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、退去時に部屋を修繕する費用を賃借人が負担するのか、賃貸人が負担するのかについて、一般的な考え方を示しています。 出典: 国土交通省「これでわかる!」
つまりガイドラインは「裁判や交渉の場で参照される考え方の目安」であり、契約内容や特約、過去の裁判例によって実際の負担割合が変わることがあります。管理会社として金額を算出する際も、「ガイドラインどおりに計算すれば必ずその金額で確定する」というものではなく、あくまで協議・交渉のベースになる参考値として扱う必要があります。
原状回復費用の計算結果は、あくまで「協議のたたき台」になる参考額です。最終的な負担額は、賃貸借契約の特約内容や入居者との合意によって変わり得ます。
なお、そもそも借主負担になるのか貸主負担になるのか自体が曖昧なケースもあります。負担区分の判断に迷う場合は、原状回復の負担区分が分からないときの考え方と確認手順もあわせて確認しておくと、計算に入る前の切り分けがしやすくなります。
原状回復費用の計算手順
ここからは、退去立会い後に実際に金額を算出するまでの流れを番号つきで整理します。
1. 損耗・毀損が発生している部位を特定する
まず、退去立会いで確認した損耗・毀損箇所をリストアップします。壁紙(クロス)、床(フローリング・クッションフロア)、建具、設備機器(エアコン・換気扇など)、クリーニング対象箇所など、部位ごとに分けて記録します。このとき、通常の使用による経年劣化・通常損耗なのか、借主の故意・過失や善管注意義務違反による損耗なのかを区別しておくことが前提になります。
- 損耗・毀損箇所を部位ごとに写真とメモで記録した
- 通常損耗(経年劣化)か借主負担になりうる損耗かを仮に分類した
- 補修が必要な範囲(箇所のみか、面・部屋全体か)を確認した
ガイドラインでは、クロスなどは毀損箇所を含む一面分までを借主負担の対象とし、部屋全体の張替えまでを借主負担とすることは妥当ではないとされています。
賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替費用を賃借人負担としてもやむをえないと考えられます。…部屋全体のクロスの張替費用を賃借人の負担とすることは妥当ではないと考えられます。 出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインに関する参考資料」
2. 部位ごとの単価(原状回復費用の相場)を確認する
次に、特定した部位ごとの補修・交換にかかる単価を確認します。クロス張替え、フローリング補修、クリーニングなど、部位ごとに施工会社から取得している単価表や見積もりをもとに金額を当てはめます。原状回復費用の相場は地域や施工会社によって差があるため、自社で過去の施工実績を単価表として蓄積しておくと、毎回見積もりを取り直す手間を減らせる場合があります。
3. 入居年数から負担割合を考える(経年劣化の計算)
ここが原状回復費用の計算の中心部分です。借主に過失があり原状回復義務があると判断される場合でも、設備や内装には耐用年数があり、使用期間に応じて借主の負担割合が軽減される仕組みになっています。
退去時に故意・過失、善管注意義務違反等による損耗等があり、賃借人に原状回復義務があると判断される場合にも、費用を全て賃借人が負担するわけではありません。具体的には、耐用年数が経過した設備について、残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定するものです。 出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインに関する参考資料」
計算式としては、以下の形がよく使われます。
- 賃借人負担割合 =(耐用年数 − 入居年数)÷ 耐用年数
例えば、クロス(耐用年数6年と仮定した場合)に入居3年の借主が過失で汚損を与えたケースでは、負担割合は(6−3)÷6で50%となります。原状回復費用が8万円であれば、借主負担は4万円、残りの4万円は貸主負担という計算になります。耐用年数を超えて入居していた場合は、負担割合の計算上、借主負担はごくわずか(名目上1円など)になる考え方です。
ただし、長期間の使用に耐え部分補修が可能なフローリング、襖紙、障子紙、畳表のような消耗品については、この経過年数の考え方をそのまま当てはめない整理がされている点にも注意が必要です。
4. 金額を算出する
部位ごとの単価に負担割合を掛け合わせ、部位ごとの借主負担額を算出します。複数部位がある場合は、部位ごとに計算してから合算します。クリーニング代や鍵交換費用など、経年劣化の考え方になじまない項目(消耗品的な扱いのもの)は、別立てで整理しておくと混同を防げます。
- 部位ごとの単価 × 負担割合 を計算した
- 経年劣化の考え方になじまない項目(クリーニング代等)を別枠で整理した
- 部位ごとの金額を合算し、合計の概算額を出した
つまずきやすい点:部位ごとに耐用年数の考え方が異なる
原状回復費用の計算でつまずきやすいのが、「すべての部位に同じ耐用年数の考え方を当てはめてしまう」ことです。クロスや設備機器のように年数に応じて価値が減っていく考え方がなじむものがある一方、フローリングや畳表、襖紙、障子紙のように長期間の使用に耐え部分補修が可能な部材は、経過年数の考え方をそのまま適用しない整理がされています。
部位ごとに「経過年数を考慮するもの」と「考慮しにくいもの」が混在しているため、一律の計算式を全部位に当てはめると、実態とずれた金額になることがあります。部位ごとの性質を確認したうえで計算式を使い分ける必要があります。
また、同じクロス張替えでも、入居前から既に経過年数がある状態だったのか、新品の状態から貸し出したのかによって起点が変わります。前の入居者が使用した年数が残っている状態で次の入居者に貸し出した場合は、その経過年数も含めて耐用年数との比較を行う必要があり、単純に「今回の入居者の入居年数だけ」で計算すると誤差が出ることがあります。
実際の運用面では、管理会社によってガイドラインの考え方をどこまで反映しているかにも差があります。減価償却の考え方を厳密に適用して耐用年数経過時の負担を1円程度に抑えている管理会社がある一方で、減価償却を行わず借主負担を100%としている運用も見られ、退去費用の相談で金額差が大きくなりやすいのはこの減価償却の扱いの違いによるところが大きいとされています。こうした運用差があることを踏まえても、まずはガイドラインの考え方に沿って概算を出し、そこから協議するという進め方が現実的です。
特約の内容によっても負担区分の扱いが変わってくるため、特約まわりでのトラブル事例を把握しておきたい場合は原状回復の特約トラブル事例から見る注意点【管理会社向け】も参考になります。
計算をツールで楽にする選択肢
ここまでの手順を物件ごと・退去ごとに手計算で行うと、部位数が多い場合や退去件数が多い時期には、単価表の確認や負担割合の計算を何度も繰り返すことになります。この負担を減らす方法の一つとして、退去立会いの記録(退去レポ)に部位ごとの単価表をあらかじめ登録しておき、入居年数を入力すると概算金額が自動計算される仕組みを使う方法が挙げられます。例えば、退去立会い時にクロスやフローリングなど部位ごとの単価をシステムに登録しておけば、入居年数を入力するだけで耐用年数に基づいた負担割合が反映され、部位ごとの概算金額とその合計が表示される、という流れです。
この方法で表示される金額は、あくまで概算・参考額です。実際の負担額は契約内容や交渉結果によって変わるため、最終的な金額は個別に確認する必要があります。また計算のもとになる考え方の最新情報は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で随時確認してください。
このような計算の自動化は、見積もりソフトの選定ポイントの一つにもなります。ツール選びの観点を比較したい場合は原状回復の見積もりソフトを選ぶときの観点、退去立会いから業務全体を見直したい場合は賃貸管理会社の業務効率化アプリの選び方|退去立会いから着手する理由もあわせてご覧ください。いずれの場合も、ツールはあくまで計算の手間を減らす選択肢の一つであり、ガイドラインの考え方そのものを置き換えるものではない点は念頭に置いておく必要があります。
まとめ
原状回復費用の計算は、「部位を特定する→単価を確認する→入居年数から負担割合を考える→金額を算出する」という流れで進めるのが基本です。国土交通省のガイドラインは法的拘束力のある法律ではなく一般的な考え方を示した指針であるため、計算結果は協議のたたき台となる概算として扱い、部位ごとに耐用年数の考え方が異なる点に注意しながら金額を整理していくことが大切です。件数が多い場合は、単価表を登録して入居年数から概算が自動計算される仕組みを使う方法も選択肢の一つとして検討してみてください。
よくある質問
Q原状回復費用は必ずガイドラインどおりの金額になりますか?
Aいいえ。国土交通省のガイドラインは法的拘束力のある法律ではなく、一般的な考え方を示した指針です。実際の負担額は賃貸借契約の特約内容や当事者間の協議、過去の裁判例などによって変わることがあります。
Q耐用年数はすべての部位で同じ考え方を使えますか?
Aいいえ。クロスや設備機器のように経過年数に応じて負担割合を軽減する考え方がなじむ部位がある一方、フローリングや畳表、襖紙、障子紙のように長期間の使用に耐え部分補修が可能な部材は、経過年数の考え方をそのまま当てはめない整理がされています。
Q前の入居者が使っていたクロスの場合、経過年数はどう考えますか?
A入居前から既に経過年数がある状態であれば、その経過年数も含めた状態を起点にして耐用年数との比較を行う必要があります。今回の入居者の入居年数だけで計算すると実態とずれることがあります。
Q原状回復費用の計算ツールで出た金額はそのまま請求してよいですか?
Aツールで算出される金額はあくまで概算・参考額です。最終的な負担額は契約内容や交渉結果によって変わるため、最新の考え方は国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で確認し、個別に精査することをおすすめします。
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