整体院や接骨院などで紙のカルテを使い続けているオーナーの方から、「紙カルテを電子化したいが、何から手をつければよいかわからない」という相談を受けることがあります。結論から言うと、紙カルテの電子化は、いま使っている紙の項目をそのまま画面の項目として置き換えることを基本の考え方として進められる場合が多いです。業態や法令上の要件によっては追加の対応が必要になることもありますが、多くのケースでは、紙に書いている内容を一つずつ画面の入力欄に対応させていくことが、電子化の中心的な作業になります。
この記事では、個人院が紙カルテを電子化する際の前提の確認から、具体的な手順、つまずきやすいポイント、ツールで進めやすくする方法までを順番に説明します。
紙カルテの電子化とは、項目をそのまま画面に置き換えること
紙カルテの電子化というと、医療機関向けの大規模な電子カルテシステムや、過去の紙カルテをスキャンして保存するサービスを思い浮かべる方もいるかもしれません。ですが、個人院や個人店が日々の施術記録・来店記録を管理する目的であれば、話はもっとシンプルです。
紙カルテに書いている「氏名」「来店日」「症状」「施術内容」「次回予約」といった項目を、そのままデジタルツールの入力項目として用意すれば、それが紙カルテの電子化です。新しい項目を無理に増やす必要はありません。
なお、医療機関が診療録(カルテ)を電子化して保存する場合には、法令上の要件が定められています。たとえば厚生労働省の資料では、スキャナ等による電子化保存に関して、改ざん防止や一定の規格を満たすスキャナの使用などの要件が示されています出典: 厚生労働省。医師法上の診療録に該当するかどうかは業態によって異なるため、整体院や接骨院など医療機関以外で来店記録・施術記録として管理する場合は、この記事で扱う「紙の項目を画面に置き換える」という進め方が参考になるケースもありますが、該当するかどうかや必要な対応は業態・運用によって異なるため、判断に迷う場合は管轄の窓口や専門家に確認することをおすすめします。
電子化の前に確認しておきたい前提
手順に入る前に、以下の2点を決めておくと、後の設計がスムーズになります。
どの項目を電子化するか
紙カルテに書かれている項目の中には、日々の運用で実際に使っているものと、昔から様式として残っているだけでほとんど参照していないものが混在していることがあります。電子化のタイミングで、どの項目を残すかを一度棚卸ししておくと、画面がすっきりします。
お客様に見せてよい項目と、スタッフだけが見る項目を分けるか
紙カルテは1枚の紙にすべての情報が書かれているため、お客様に見せる・見せないという区別が曖昧になりがちです。しかし電子化すると、画面の表示を項目単位でコントロールできるようになります。症状の詳細や施術者間の申し送りなど、スタッフだけが確認できればよい項目と、来店履歴や予約内容などお客様自身にも見てもらってよい項目を、この段階で分けておくかどうかを検討しておくと、後の設計で迷いにくくなります。
紙カルテを電子化する手順
ここからは、実際に電子化を進める際の手順を順番に説明します。
手順1. 使っている紙カルテの項目をすべて洗い出す
まず、現在使っている紙カルテを1枚手元に置き、記入欄をすべてリストアップします。氏名・住所・電話番号といった基本情報のほか、症状・部位・施術内容・担当者メモ・次回予約日など、記入している項目を漏れなく書き出します。
この段階で、「実は記入していない項目」や「別の紙に書いてカルテには転記していない情報」が見つかることもあります。洗い出した時点で、残す項目と削る項目を仮に分けておくと、次の手順で迷いにくくなります。
手順2. 電子化するツールで項目を設計する
洗い出した項目を、使用するツールの入力画面に一つずつ対応させていきます。ここでのポイントは、紙にあった項目名をできるだけそのまま使うことです。項目名を大きく変えてしまうと、スタッフが「どの欄に何を書けばいいか」を覚え直す必要が出てきて、運用の立ち上がりが重くなることがあります。
このとき、前提の確認で検討した「お客様に見せる項目/見せない項目」の区分も、ツール側の設定に反映しておきます。多くの受付・顧客管理ツールでは、項目ごとに表示範囲を設定できる仕組みが用意されています。
手順3. スタッフに運用を共有する
項目設計が終わったら、実際にカルテを記入するスタッフに、新しい画面でどこに何を入力するかを共有します。紙のカルテと画面の項目が対応していることが分かるように、紙の項目名と画面の項目名を並べた簡単な対応表を用意しておくと、説明がしやすくなります。
運用開始直後は、紙と電子の両方で記録する期間を短く設けて、記入漏れがないかを確認する方法もあります。ただし並行期間を長く取りすぎると、二重入力の負担がかえって増えることもあるため、切り替えの目安を決めておくとよいでしょう。
つまずきやすい点:項目をお客様に見せたくない場合の扱い
紙カルテの電子化でよく相談を受けるのが、「症状の詳細や施術者のメモなど、お客様には見せたくない項目をどう扱えばよいか」という点です。
紙のカルテであれば、カルテ自体をお客様に見せなければ済みますが、電子化後にお客様向けのマイページや予約確認画面を用意すると、画面の作り方によってはすべての項目が見えてしまう場合があります。項目を分けて設計しないまま電子化を進めると、スタッフ用に書いたつもりのメモがお客様の目に触れてしまうことになりかねません。
電子化の設計段階で「お客様用の画面に表示する項目」と「スタッフしか見ない項目」を分けていないと、症状の詳細やスタッフ間の申し送りメモがお客様にそのまま表示されてしまう場合があります。項目を追加する際は、表示範囲の設定もあわせて確認しておくことが大切です。
この点は、紙の顧客台帳をそのままデジタル化する際にも共通して出てくる課題です。関連する内容は顧客管理が紙の台帳で限界を迎えたときの整理法でも触れています。
ツールで電子化を楽にする選択肢
紙カルテの電子化は、表計算ソフトに項目を並べて自作する方法から、顧客管理・予約管理を兼ねた専用ツールを使う方法まで、いくつかの選択肢があります。表計算ソフトは費用がかからない反面、項目ごとの表示範囲を分けるといった制御が難しい場合があります。専用ツールの場合は、項目の追加やカルテ用の表示制御がはじめから用意されていることがあり、前述の「お客様に見せたくない項目」の扱いに対応しやすい場合があります。
選択肢の一つとして、「個人店のための受付台帳」のような、個人院・個人店向けに項目設計の自由度を持たせた受付台帳ツールが挙げられます。他にも同様の機能を持つツールはあるため、自院の運用に合うかどうかを比較しながら検討するとよいでしょう。
「個人店のための受付台帳」には、台帳設定の画面から症状や部位といった項目を追加できる機能があります。追加した項目を「カルテ項目」として設定すると、設定や運用方法によっては、その項目がお客様用モードの画面には表示されないようにできる場合があります。設定内容や今後の仕様変更によって挙動が異なる可能性もあるため、実際の表示結果は利用時に確認することが必要です。たとえば、台帳設定の項目一覧で「症状」という項目を新規作成し、表示設定を「カルテ項目」に切り替える操作を行った場合、設定どおりに運用されていれば、その項目はスタッフ側の画面には表示され、お客様が予約確認などで見る画面には表示されないという結果になるケースがあります。こうした設定を活用することで、紙カルテの時点で「お客様には見せていなかった欄」を、電子化後も近い形で扱えるケースもありますが、実際にどこまで同様の運用ができるかは設定内容や利用環境によって異なります。ただし、設定内容や今後の仕様変更によって表示の扱いが変わる可能性もあるため、実際の表示結果は定期的に確認することをおすすめします。
電子化後の運用で意識しておきたいこと
電子化が完了したあとも、紙のときと同じように項目の見直しは続きます。施術メニューが増えたり、新しいスタッフが加わったりするたびに、記録しておきたい項目が変わることがあります。そのたびに手順2・3を小さく繰り返す意識を持っておくと、画面が使われない項目だらけになることを防ぎやすくなります。
また、過去の紙カルテをどこまで電子化するかも検討が必要です。すべての過去カルテを一度に入力し直すのは負担が大きいため、来店予定のあるお客様から優先して電子データに移す、といった段階的な進め方も選択肢になります。業態によっては保存義務のある記録と、そうでない記録が混在していることもあるため、判断に迷う場合は専門家に相談することをおすすめします。
紙の記録からデジタルへの切り替え全般の考え方は、紙の勤怠管理からデジタルへ切り替える手順でも近い進め方を紹介しています。あわせて参考にしてください。
まとめ
紙カルテの電子化は、特別なシステムを一から構築することではなく、紙に書いている項目をそのまま画面の項目として置き換える作業です。前提として「どの項目を電子化するか」「お客様に見せる項目とスタッフだけが見る項目を分けるか」を確認したうえで、項目の洗い出し→ツールでの項目設計→スタッフへの共有、という順番で進めれば、個人院でも無理なく電子化を進められます。お客様に見せたくない項目がある場合は、表示範囲を項目単位で制御できるツールを選ぶことで、紙カルテのときと同じ使い分けを電子化後も維持できます。